食品業界の専門家、研究者、そして消費者は大量の食品・栄養・健康分野の情報を受け取りますが、科学的と見せかけて疑似科学的な記事や記録、または意見に晒されることは、受け手の認識、知識また意思決定力に影響を与える可能性があります。

重大な問題

ある研究によれば、今日、ハゲタカジャーナル (predatory journal) 上で発表される研究は、世界における科学的研究成果物の5分の1を占めると言われています。これは年間でほぼ50 万記事にあたり、またこれらに関連する財政支出は年間 7,500 万~1億米ドルにのぼると推定されています。

これらの誌上に発表された研究は、徹底した査読プロセスを経ているとは考えられません。また必ずしも疑似科学と限らないものの、行われた研究や導き出された結論の信頼性を保証するチェックは行われていません。

結果、読者や研究者であれば誰でも、ハゲタカジャーナルを通じて、品質に疑問のある情報にオンラインでアクセスできるようになりました。査読のように、従来の学術出版に組み込まれている保護機構がなければ、どの研究が信頼でき、どの研究がそうでないかを見分けることは酷く困難です。

そのためハゲタカジャーナルはニセ科学の温床となり、学術コミュニティに誤った情報を広め、また発表された研究成果に対する社会的信頼を損なう可能性があります。

IFIS Publishing の前 Senior Information Literacy and Outreach Manager である Carol Hollier 氏は「これは今日の学術情報流通における、非常に大きな、そして悲しいことに、特有の課題だ」と述べています。

疑似科学を避けるための知見を共有する

現在アイオワ大学で Sciences Reference & Outreach Librarian を務める Hollier 氏は、昨年(2023年)初に IFIS と EBSCO 社の共催で行われたオンラインセミナーにおいて、食品業界の研究者や学生が疑似科学によって引き起こされる恐怖心の扇動や混乱をどう回避すればよいかについて話し合いました。

最初のステップは、問題を理解することです。

コロラド大学の図書館員 Jeffrey Beale は、オープンアクセスコンテンツの台頭によってもたらされた学術出版環境の変化を利用して勢いを増した現象を指して「ハゲタカジャーナル (predatory journal)」という用語を最初に作りました。

また Simon Linacre は2022年に出版した「The Predator Effect」という書籍の中で、ハゲタカジャーナルのことを 「欺瞞的かつ、多くの場合贋物で、オープンアクセスモデルを悪用し、論文の投稿を勧誘するため誤解を招くような手段を用いることで、正規の査読誌のように見せかけ、学術的ステークホルダーに影響を与える(deceptive and often fake, given the appearance of legitimate peer-reviewed journals and impact academic stakeholders by exploiting the Open Access model while using misleading tactics to solicit article submissions)」ものと定義しました。

捕食的ではないオープンアクセスジャーナルも多くありますが、Hollier 氏は、ハゲタカジャーナルのことを 「紙媒体の学術誌を出版する環境から、オープンアクセスで論文を利用できる環境への移行によって発生した脆弱性の一部を利用し繁栄している」と説明しました。

ハゲタカジャーナルは pseudo-journals、fake journals、deceptive journals、もしくは shell journals と呼ばれることもあります。そしてこの問題は、なにも学術誌に限ったものではありません。Hollier 氏は更に、学術情報市場においては同時にハゲタカ学会(捕食学会)、ハゲタカ出版(書籍)、ハゲタカレポジトリの台頭も目撃されていると話しています。

ハゲタカジャーナルはどのようにオープンアクセスを悪用するのか?

従来の出版モデルでは、通常、図書館が学術誌を購入するか、個人が論文にアクセスするための料金を支払っています。

Open Access はこのモデルを覆しました。一概には言えませんが、一般的に査読を経て論文が受理されると、論文の著者(ら)、機関、または資金を提供する団体から、料金が学術誌側に支払われます。 そして論文は公開されると、研究者、学生、消費者、ジャーナリスト、そして広範な食品・健康医療分野の関係者など、誰もがアクセスできる場所で、無料で読むことができます。

ハゲタカジャーナルの出版社はこのシステムを食い物にする形で、著者から掲載料を徴収するために編集上の精査を殆ど行うことなく論文を受理しています。

事実と虚構の切り分け

以下に挙げる6つの特徴は、研究者や学生がハゲタカジャーナルを識別する上で役立ちます。ひとつの指標のみで誤りや欺瞞を確認できるものではありませんが、これらの特徴のいくつかを持ち合わせているものは、自身の研究に引用する前に更に調査を行った方が良いでしょう。

  • 査読
    その学術誌が、出版物の選択やスクリーニング方法のエビデンスを示さず、査読を提供していると述べている場合、それは懸念を引き起こす可能性があります。 多くの場合ハゲタカジャーナルは投稿を誘致するため、(通常 1 週間未満の)短い査読期間、または有料のスピードアップサービスを提供しています。
  • 編集委員会
    ハゲタカジャーナルでは個人の名前を、本人の同意なしで編集委員会に加えている場合があります。特定のメンバーについて検索しても、そのメンバーは会員名簿に記載されている所属機関とは関係がないため、徒労に終わる可能性があります。
    また様々な学術誌を発行する出版社は、個人の名前を複数の役職(職位)や投稿と共に掲載している場合があります。更に詳しく調べてみると、これらは同じ研究分野に属していない可能性もあります。
  • 所属機関
    本人が知らずに、もしくは承認なしに著名な機関や組織との繋がりを公言したり示唆したりすることは、その学術誌が欺瞞的で、かつ誤解を招くよう作られている可能性があることを示す危険信号です。
  • インデックス情報
    ハゲタカジャーナルは信頼性の高い学術誌に似た名前を付けることで、同じく信頼性の高いジャーナルインデックスに、自誌のインデックス情報が収録されているかのように誤認させます。この虚偽の主張は、利用者を騙し、自らが信頼できる学術誌だと思い込ませることを目的にしています。
  • インパクトファクターに関する主張
    インパクトファクターが高いという主張は、ハゲタカジャーナルが自らの正当性を示す際の特徴です。信頼できる「インパクトファクター」は Clarivate Analytics のJournal Impact Factor (JIF) だけですので、この嘘を見破るのは簡単です。
  • 所在情報の精査
    ハゲタカジャーナルは住所を掲載しないことがよくあります。 そうした場合、彼らはアメリカ、もしくはイギリスにいることが殆どです。ただし、ハゲタカジャーナルのホームページに名前が挙げられている個人は、異なる住所と紐づけられていることがよくあります。もし郵便番号等の住所が記載されている場合は、Google マップで検索するなどして、その信憑性を確認してください。

疑似科学を発見する

Hollier 氏は、これらの特徴は有用ではあるものの、単一の特徴だけで、あるジャーナルがハゲタカジャーナルであるかそうでないかを見極めることはできないと説明しました。むしろ、当該の学術誌が疑わしく、また避けるべきものかどうかを判断するには特徴のバランスを考慮する必要があります。

学生や研究者が、食品科学や栄養学分野の科学文献を検索する際に FSTA もしくは FSTA with Full Text といった信用できるリソースを用いることで、確実にハゲタカジャーナル(やそこに掲載されている論文)を回避することが出来ます。

FSTA を作成している IFIS Publishing の食品科学者チームは、ハゲタカコンテンツを評価する専門家です。FSTA データベースにインデックス情報が収録されている各学術誌は、 60項目に及ぶ綿密なハゲタカコンテンツのチェックリストに合格したもので、これにより利用者の皆様に信頼できる科学のゴールドスタンダードをお届けしています。