テクノロジーが情報へのアクセスを変化させていく中、AI を軸にデジタル時代への適応を図る図書館もみられます。 AI を搭載したツールは図書館向け学術情報検索プラットフォームに革命をもたらし、検索機能を強化し、利用者と適切な情報とを素早く結び付けます。ただし、革新的な AI 機能と入念なアプローチのバランスをとることが欠かせません。

EBSCO では、図書館向け学術情報検索プラットフォームにおいて生成 AI の力を活用し、学術研究の有効性を高めると共に、学術情報検索を変革します。同時に、責任ある、倫理的かつ安全な方法で AI へのアプローチを進めるための指針も策定しました。 

私たちは、図書館向けの学術情報検索プラットフォームである EBSCO Discovery Service (以下 EDS)と EBSCOhost のユーザーインターフェース(以下 UI)で AI を活用する機会を探り、また実際に開発を始めました。そのプロジェクトの一環に「AI Insights」と呼ばれる機能があります。

AI Insights とはどういう機能ですか?

EBSCO の AI Insights は、生成 AI を利用した機能で、その論文の重要なポイントを 3-5 点に要約し、利用者が関連性をすばやく評価できるようサポートするものです。本機能は EDS および EBSCOhost の新 UI 上で利用することができ、サブジェクトヘディングや抄録から得られる情報を補完する役割を果たします。インサイトは AI によって生成されたものであることが明記され、あわせて利用前に正確性を確認するよう利用者に促す免責事項も表示されます。 

Database showing Generative AI insights from searching content

AI Insights 画面例

AI Insights の β テスト

EBSCO 米国本社では 昨 2024 年 4 月から 5 月にかけて、米国の図書館 50 館に対し AI Insights の β 版を(先行)リリースしました。また利用者(エンドユーザー)20 名を対象にしたユーザーエクスペリエンスの調査も併せて行われ、6 月には β テストに参加したお客様の小規模なグループでフォーカス・グループが開催され、意見の交換が行われました。

β テスターからはどのような意見が寄せられたのですか?

AI Insights に対する総合的な印象についての回答は下記の通りです:

  • (アンケート回答者の)20% が「とても肯定的(Very Positive)」でした。
  • 41% が「やや肯定的(Somewhat Positive)」でした。
  • 15% が「どちらとも言えない(Neutral)」でした。
  • 20% が「やや否定的(Somewhat Negative)」でした。
  • 4% が「とても否定的( Very Negative)」でした。 

またユーザーエクスペリエンスの調査で、利用者については以下のことが分りました: 

  • 自身を「効率を追求する」だと定義している方の 96% が、AI Insights 機能を「非常に役に立った(very helpful)」と回答しました。
  • 自身を「研究熱心」だと定義している方の 85% が、AI Insights 機能を「役に立った(helpful)」と回答しました。
  • 自身を「パワーリサーチャー」だと定義している方の 20% が、AI Insights 機能を「どちらかと言えば役に立った(neutrally helpful)」と回答しました。

更に、利用者の平均 85% が、AI Insights 機能は利用者の学習や研究の流れに大きなプラスの影響を与えると感じていました。 

肯定的なご意見に共通していたのは、AI Insights は抄録情報を補完する、学習や研究の効率があがる、大多数の抄録よりも読みやすいので初学者が複雑な学術研究を理解するのにとても役に立つ、という内容でした。β テスターの中には、英語以外の言語で執筆された論文であっても AI Insights は英語で読むことができる点を高く評価する人もいれば、当該機能を、図書館向け学術情報検索プラットフォームの利用者を対象とした情報リテラシースキルビルダーとして利用できるのではと考えた人もいました。 

「キーワードや副論題を決定するとき、トピックの絞り込みや展開を行うとき、概要を作成するときなど、学習・研究の初期段階における様々なポイントで応用できる機能だと感じました」 - β テスター(図書館職員) 

アンケートの回答者は、AI Insights が論文を通読する前に簡単な評価ができるツールを提供することが、学術研究のスピードアップに貢献している点を強調しました。この特長は、学部生と熟練の研究者双方から(自分の学習や研究に)無関係な論文を除外することで時間を節約できると、高い評価を受けました。 

「もっと検索をしたくなります。必要な情報をすぐに見つけられるのですから……役に立たない論文を読んで時間を無駄にすることもないので、情報検索の生産性と研究の効率が向上しました。完璧な情報ソースを見つけるのには何時間もかかりますが、この機能を使えば数分で済みます」 – 上級研究者 

ただ、初学者や検索に不慣れな研究者の中には、情報のソースにあたることなく Insights を直接自身の学習・研究に用いる傾向が強い人もいました。その一方で教員の中には、抄録と比較して Insights の利点が何なのかよく分からないと言う人もいました。 

「良い概要だとは思いますが、論文に通常付与されている要約よりも役に立つものかどうかは分かりません。その研究の規模、対象とする学生の数、中等教育向けか高等教育向けかなど、詳しい情報を得るには結局クリックして中身を見ないといけません」 - 教職員 

これは学術研究でも裏付けられており、AI に対する情報リテラシーを高める必要があることがその調査結果から示唆されています。 β テストに参加した K-12 および大学図書館の職員は、このリスクを予想していましたが、これは複数のアンケート回答者から寄せられた意見の中でしばしば言及された利点に繋がります ―― つまり AI Insights が、AI 黎明期において情報リテラシー教育のための「学ぶ機会」を提供する、ということです。 

β 版を利用したお客様の間では、生成 AI(のレスポンス)の不正確さをどの程度許容するかに幅がありました。フォーカス・グループに参加した一部の学術研究図書館のお客様は、AI がより一貫して正確になるまでは利用者の需要を満たすことはできないと述べ、一方、他のお客様は AI Insights が引用可能もしくは常に同じ回答を返す(再現性を持つ)ようになるまで、機能を有効にすることはできないと述べました。精度に問題があった主な AI Insights は、書籍や書評など、他の参考文献を本文として引用しているものでした。アンケートの回答者とフォーカス ・グループの参加者の多くは、図書館利用者にとって不利益となるリスクは低いと感じていたため、それほどの懸念は抱いていませんでした。多くのフォーカス・グループ参加者は、前述の利点、つまり情報リテラシーを教育する立場の人間が  AI Insights を通じて生成 AI テクノロジーは誤りをおかす可能性があると知ることで、そのことを自らの教育成果に組み込む機会が得られる点を指摘しました。これ(AI の誤り)は、多くの学生が学ぶ必要のある重要なポイントです。 

β テスターから提言のあった AI Insights の改善点にはどのようなものがありましたか?

レビューなど参照する資料の正確性を向上する以外に、β テスト参加者の中からは、 AI Insights は一貫性を保つため、常に同じ数のインサイトを生成するべきだとする意見が出た一方、ソースとなる文章に応じて(生成される)インサイトの数が異なることを高く評価する意見も出ました。学業で簡単に検証できるよう、再現可能なインサイトを求める意見があった一方、より良い表現のためインサイトを再生成できる柔軟性を評価する意見もありました。どのように AI Insights が実装されたかの透明性も重要であり、図書館員は、なぜこの機能が一部の記事では利用可能で、他の記事では利用できないのかを明確にしたいと考えました。この理解は AI Insights をより効果的に教授し、また利用する上で役に立ちます。

EBSCO 社がこれらの意見から学んだことは何ですか?  また、それは AI Insights の開発ロードマップにどのような影響を与えたのでしょうか?

EBSCO 社の Product Manager は β テストのフィードバックから貴重な知見を得て、また図書館における AI ツールの使い心地には様々な感じ方があることが明らかになりました。 EDS および EBSCOhost で AI Insights が利用可能になった後、お客様はその機能を有効にするかどうかを選択して頂けます(*デフォルトの設定はオフです)。 
重要なのは、図書館職員の皆様に AI リテラシーを教える力をつけて頂く必要があるということであり、弊社では FAQ を含む EBSCO Connect の文書や AI at EBSCO ページの資料(*現在英語版のみのご提供です)で皆様の学びをサポートいたします。また、EBSCO では、皆様から寄せられたフィードバックや機能強化の要望を取り入れながら、AI Insights 機能を順次、継続的に改良して参ります。

より詳しい情報をお求めですか?

EBSCO 米国本社は、昨 2024 年 6 月に EBSCO AI  β Program を開始しました。私どもは、それぞれの取り組みについて本稿のようなエグゼクティブ・サマリーを公開し、弊社が行った研究と発見が学術界における AI のより大きな研究にどのように適応するかに焦点を当てた学術論文を 2025 年前半に公開する予定です。これらすべての資料は、AI at EBSCO ページよりご覧いただけますので、ご興味のある方は是非ご参照下さい。