現在(=記事の公開時点)、世界では7つの異なる COVID-19 ワクチンの使用が承認されています。 本稿は DynaMed® の感染症(Infectious Disease)担当チームが、ワクチンの可用性・ワクチンの種類・ワクチンの有効性・変異株・および接種の注意事項についてまとめたものです。(原記事:Five Pressing Questions About COVID-19 Vaccines Answered, 2021年2月23日公開)

(注)本記事は記事公開時点における米国の事情に基づいて執筆された内容の翻訳であり、最新の現状、また日本における事情とは異なる場合があります。予めご了承下さい。

COVID-19 のパンデミックに終止符を打つべく、世界各国で COVID-19 ワクチンの大規模接種が行われていることで、皆さん様々な COVID-19 ワクチンについての様々な疑問を抱いています。そこで本稿では、最も一般的に聞かれる質問と、それらに対する回答をいくつかご紹介したいと思います。

 

1. 現在利用可能なワクチンにはどういったものがありますか?

7つの COVID-19 ワクチンが、様々な形式の承認や緊急許可を通じ、75か国以上で一般に使用されています。承認プロセスは国ごとに異なるため、どのワクチンが利用できるかは、あなたの居住地によって異なります。

最初の承認は、ロシアの Gamaleya Research Institute 製スプートニク V ワクチン、また中国のカンシノ・バイオロジクス社、シノバック・バイオテック社、そしてシノファーム社製のワクチンに対し行われました。ただしこれらの承認は、大規模な第 Ⅲ 相臨床試験を完了する前に下されたものです。 現在、米国ではファイザー / BioNTech 社ならびにモデルナ社製の2つのワクチンの使用が承認されています。そして、この2種は(日本を含む)世界中の様々な国においても、利用が承認されているワクチンです。アストラゼネカ社製のワクチンは、英国で最初に承認されて以来、ヨーロッパ諸国およびその他いくつかの国でも承認されています。そして、ジョンソン & ジョンソン社(米)、およびノババックス社(米)製の COVID-19 ワクチンが、続いて認可されるだろうとされています。(※ ジョンソン & ジョンソン社製のワクチンは2021年2月28日、FDA が米国における使用許可を出しています)

複数の COVID-19 ワクチンによる迅速かつ世界的なワクチン接種は、重要な公衆衛生上の目標です。世界的なワクチンの供給量は未だ限られたものですが、仮に複数のワクチンが認可を受けている国に住んでいたとしても、私たちが摂取できるワクチンを選択できるかどうかは保証されません。

2.様々なCOVID-19ワクチンの違いは何ですか? 逆に、共通点は何ですか?

ワクチン間の主な違いは、ワクチンの原料がウイルスそのもの(SARS-CoV-2 またはウイルスベクター)か、ウイルスの遺伝子素材(DNA または mRNA)か、もしくはウイルスの一部(タンパク質サブユニット)か、です。 シノバック社とシノファーム社製のワクチンは不活化した SARS-CoV-2 ウイルスを使用した whole virus vaccine です。アストラゼネカ社、カンシノ・バイオロジクス社、ジョンソン & ジョンソン社製のワクチンとスプートニク V は、SARS-CoV-2 のスパイク遺伝子をエンコードした異種アデノウイルスを用いたウイルスベクターワクチンです。ファイザー / BioNTech 社とモデルナ社製のワクチンは、SARS-CoV-2 スパイクタンパク質の形成指示を脂質シェルで包んだ mRNA ワクチンです。最後に、ノババックス社製のワクチンは、使用が認可されるものとしては初めてのサブユニット・ワクチンとなる可能性が高いとされています。

その他の違いとしては、投与のスケジュールや保管条件などがあります。例えば、カンシノ・バイオロジクス社とジョンソン & ジョンソン社製のワクチンは単回接種が認められていますが、その他のワクチンは2回接種が必要とされています。そして2回の接種が必要なワクチンの場合、推奨される接種間隔は14日~56日です。また、保管の温度も異なります。ファイザー / BioNTech 社のワクチンは超低温(マイナス70度)での保管が必要なため、流通をより難しくしています。

また、現在使用が許可されている全てのワクチンに共通しているのは、腕の三角筋に筋肉内注射で投与される点です。またこれらのワクチンはいずれも抗体と T 細胞の反応が誘発されるため、それにより注射部位の痛み・腫れ、時には発熱・腺肥大・筋肉痛・頭痛などの全身症状を引き起こす可能性があります。全身症状は、2回目の接種後に多く現れます。

3. 特定のワクチンが他より優れているということはあるのでしょうか?

これまでのところ、臨床試験におけるワクチン間の直接的な比較は行われておらず、個々のプラセボ対照試験に基づいてワクチンの有効性を比較するのはフェアではありせん。対象となる母集団の違い・試験地で広まっている変異株・測定された結果・評価のタイミングなど全てが(たとえ同じワクチンの異なる試験であっても)ワクチンの有効性を変化させる要因となる可能性があります。査読誌上に発表された第 Ⅲ 相試験で報告された全体的なワクチンの有効性は70~95%で、評価された各ワクチンは、重篤化および COVID-19 による死亡を予防することがわかりました。 (報告された各ワクチンの有効性については以下の表をご参照下さい)

covid  vaccine efficacy secondary blog image

4. ワクチンは変異株にも効果がありますか?

現在承認されているワクチンが SARS-CoV-2 の変異株に対しても有効かどうかは、活発な調査が行われている分野であり、日々新しい情報が入ってきます。 初期の研究では、ファイザー / BioNTech 社およびモデルナ社製の mRNA ワクチンは、特に流行していた変異株(B.1.1.7、B.1.351、P.1)を中和できる抗体を引き出す反面、B.1.351株に対する抗体価は低いかもしれないことが示唆されていました。しかし、B.1.351株が広く流行している南アフリカで行われた臨床試験では、いくつかのワクチンがこの変異株に対して効果が低い可能性を示しているようです。ジョンソン & ジョンソン社製ワクチンの試験は、アメリカでは72%の有効性を示したのに対し、南アフリカでは57%の有効性を示すにとどまりました。また、アストラゼネカ社製ワクチンの small trial では、予防効果が確認できず、南アフリカでは予定されていたこのワクチンの導入を中止しました。SARS-CoV-2 変異株に対する継続的なサーベイランスと世界各国で行われる臨床試験により、どのワクチンが SARS-CoV-2 変異株に対してより効果的(あるいは効果的でない)か、またどのような地域で効果的かが明らかになるでしょう。もし、免疫システムを回避できるような変異株が出現した場合、その株を対象としたブースター接種が必要になるかもしれません。この目的のため、モデルナ社では既に、変異させた SARS-CoV-2 スパイク mRNA を用いた次世代ワクチンの試験に力を注いでいます。

5. どのような場合、ワクチンの接種を避けた方がいいのでしょうか?

今は、16歳以下の子供はワクチンを接種すべきではありません。青年期の若者に対して使用が認められている COVID-19 ワクチンはファイザー / BioNTech 社のワクチンのみで、これは16歳以上に対する接種が認められています。その他すべてのワクチンは、18歳以上の成人に対して使用が認められています。小児を対象に含めた臨床試験も開始されていますが、現在のところ、16歳未満の小児に対してはいずれの COVID-19 ワクチンも接種すべきではありません。

COVID-19 ワクチン接種に対する唯一の医学的禁忌は、過去のワクチン接種やワクチン成分に対する重篤なアレルギー反応です(*mRNA ワクチンの成分は CDC のサイトで確認できます)。mRNA ワクチンについては、LNP 中のポリエチレングリコールに対する交差反応性の免疫応答のため、ポリソルベート類に対するアレルギーの既往歴も禁忌とされています。ワクチン接種に際しアレルギーが懸念される場合は、医療従事者に相談するようにしましょう。

ワクチン接種に際しての注意点は、地域によっても、また接種するワクチンによっても異なります。例えば、世界保健機関(WHO)は、妊娠中または授乳中の人はワクチン接種の延期を提案していますが、米国産科婦人科学会(ACOG)をはじめとする諸機関は、妊娠中であってもワクチン接種を控えるべきではないと述べています。考慮すべきは曝露のリスク・コミュニティにおける COVID-19 の流行レベル・胎児へのリスクを含む母体の COVID-19 リスクと重篤度・ワクチンの安全性と有効性などです。免疫不全、自己免疫疾患のある人、ギラン・バレー症候群やベル麻痺(顔面麻痺)などの既往歴がある人は、注意した方がいいかもしれません。ワクチンの注意事項は禁忌ではありませんが、医療従事者と適切に話し合うことが必要です。

また COVID-19 の感染歴がある人に対してもワクチン接種は行うべきですが、ガイドラインは地域によって、またワクチンの供給状況によって異なります。(米国では)ワクチン接種に先立ち、直近で COVID-19 と診断された人は、病状が回復していることに加え、隔離を終えるための全ての基準を満たしている必要があります。またモノクローナル抗体または回復期患者血漿による治療を受けた患者は、ワクチンが引き起こす免疫反応に対する治療上の干渉の可能性を避けるための予防措置として、接種を90日間延期することが提案されています。

曝露が分かっている人の曝露後予防としては、保護効果が期待できないため、ワクチン接種は推奨されません。COVID-19 感染者との接触が明確な人は、感染の可能性を避けるために、隔離期間が終了するまでワクチン接種を遅らせるべきです。

つまるところ一般的なガイドラインとしては、COVID-19 ワクチンが提供されている場合は、どのワクチンであっても、接種できる時に接種すること、またワクチン接種後もマスクの着用、ソーシャルディスタンスの確保、まめな手洗いを継続することなのです。今のところ、特定のワクチンが推奨されているわけではありません。