(注)本記事は記事公開時点における米国の事情に基づいて執筆された内容の翻訳であり、最新の現状、また日本における事情とは異なる場合があります。予めご了承下さい。また、原記事(Five Things to Know About Monkeypox in 2022 ; 2022年5月31日公開)も併せてご参照下さい。

これまでにない地域でのサル痘の感染爆発や、また流行地への渡航歴がないサル痘患者が世界各国で報告されています。疫学的な調査が開始され、この異常な集団感染についての詳細が判明するまで、サル痘について私たちが知る限りのことを以下にご紹介します。

1.サル痘とは?

サル痘ウイルスは、天然痘ウイルス (variola virus) や天然痘ワクチンに用いられるワクシニア・ウイルスなどを含むポックスウイルス科オルソポックスウイルス属のウイルスです。 人畜共通の感染症ですが、自然宿主が何であるかについては判明していません。

サル痘には遺伝的に異なる2つの分岐群/クレードが存在しており、疫学的・臨床的な差異があります。コンゴ盆地系統の株は、致死率が10%と推定されています。他方、西アフリカ系統の株(※英国の発症例で確認)による致死率は約1%ほどです。

2.サル痘の由来は?

サル痘は、研究用のサルに発生した集団感染により、初めてその存在が確認されました(そのため「サル痘」という名前がつきました)。ヒトへの感染は、1970年、コンゴ民主共和国で初めてのケースが報告されました。その後数件の感染爆発が、中央・西アフリカの各地で、散発的に確認されています。他の地域でも数例が報告されていますが、多くはアフリカへの渡航歴を伴ったケースです。

2003年には米国6つの州において、サル痘の疑いがある数10件の症例がアメリカ疾病予防管理センター (CDC) に報告されました。調査の結果、すべてのケースにおいて、アフリカから輸入されたペット用のプレーリードッグとの接触が原因だったことが判明しています。この感染爆発は収束し、サル痘のヒト ‐ ヒト感染は確認されませんでした。

3.どのようにして広がるのか?

動物からヒトへのサル痘の伝播(いわゆるスピルオーバー)は、感染動物による咬傷やひっかき傷、あるいはジビエ肉の処理など、感染動物の体液と接触する行為によって起こります。ヒトからヒトへの感染は、病巣から出た膿を含む感染者の体液や、呼吸器からの飛沫との接触によって起こります。発症した患者は接触伝染性があると考えられ、病変が治癒するまで1ヶ月以上かかることもあります。

現在は、特定の性嗜好を自認している人々の間で発症している例も確認されていますが、サル痘が性行為によって感染するかどうかは明らかになっていません。クラスターは、長時間の濃厚接触や、病変物質、菌が付着した衣類やリネン類への接触により発生した可能性が考えられます。

4. サル痘感染による疾患の臨床的な特徴は?

サル痘は、感染してから発症までの潜伏期間が5日~21日と、かなり長いのが特徴です。初期症状は発熱・疲労・頭痛・筋肉痛など非特異的です。サル痘に感染するとリンパ節の腫脹が起こり、この点は天然痘との大きな違いなのですが、天然痘は撲滅されている為、臨床的にはあまり有用ではありません。

前述の前駆症状に続いて、深在性で境界明瞭な病変を特徴とする、進行性の発疹が生じます。 最初の病変は粘膜、多くは舌や口腔内に発生します。その後、顔面に斑点状の発疹が発生し、全身に広がることがあります。 数週間のうちに、病変は斑点から隆起して丘疹へと進行し、小水疱、膿疱となって、最終的には痂皮、かさぶたとなって剥がれ落ちます。

2022年に報告された症例の中には、性器や肛門周囲の局所的な発疹を伴うものがあり、一般的な性感染症との混同が懸念されています。 特徴的な発疹があり、加えて流行国への渡航歴がある、同様の発疹を持つ人と密に接触した、また男性と性交渉を持つ男性などの条件に該当する人は、サル痘感染の疑いが強いと考えられます。

疑わしい症例はすべて(自国の)感染症管理を担当する部署へ報告すると共に、患者の治療にあたる医療従事者は、標準的な接触および飛沫予防策に従うことが望ましいでしょう。

5.サル痘の治療法や、ワクチンはあるのか?

サル痘の感染に対する治療法は未だ確立されていませんが、いくつかの抗ウイルス薬が試験されました。シドフォビルとブリンシドフォビルは、in vitro 試験と動物実験でポックスウイルスに対する活性を示しました。もう一つの薬剤である tecovirimat は、天然痘の治療薬として、既に FDA に承認されています。

また天然痘・サル痘の両方の予防のため、Jynneos(ジンネオス)という新しいワクチンが、2019年に FDA の承認を得ていますが、実際の効能については未だ不透明です。 また、近縁のワクシニア・ウイルスを用いた従来の天然痘ワクチン接種でも、一定程度の予防効果が期待できると考えられています。
世界的に進められた天然痘の予防接種計画は1970年代に終了し、以降は軍関係者や痘苗ウイルスを扱う研究者など、特定の人を対象に、まれに予防接種を行うのみです。私たちは、2003年に米国で発生したサル痘の集団発生から、過去の天然痘ワクチンによる予防接種は(サル痘に対する)完全な防御策とはならないことを学びました。つまり、50歳以上のヒトの免疫力で十分かどうかは不明です。

サル痘の感染爆発は、一般市民にとって大きな脅威ではありませんが、医師はこの特徴的な病変に対して、また生殖器などの通常とは異なる身体部位に当該病変が見られる、特に男性と性交渉を持つ男性に対しては注意をしていく必要があるでしょう。